POM樹脂の特性・耐久性・強度を徹底解析|エンジニアが選ぶ理由とは
POM樹脂の特性・耐久性・強度を徹底解析|エンジニアが選ぶ理由とは
POM樹脂(ポリアセタール、Polyoxymethylene)は、機械部品や自動車分野で「金属に代わるプラスチック」として注目を集めています。その理由は、高い耐久性と強度、そして優れた寸法安定性にあります。本記事では、POM樹脂の構造的な特性から、他のエンジニアリングプラスチックとの比較、そして実際の使用事例までを詳しく解説します。
POM樹脂とは?基礎特性と分子構造
POM樹脂は、ホルムアルデヒドを重合して得られる結晶性プラスチックで、代表的なものに「ホモポリマータイプ(デュポンのDelrin)」と「コポリマータイプ(CelconやDuracon)」があります。高結晶性ゆえに、金属のような剛性と強度を発揮し、摺動性・耐摩耗性にも優れています。
タイプ | 特徴 | 代表メーカー |
---|---|---|
ホモポリマー | 強度が高く、耐疲労性に優れる | デュポン(Delrin) |
コポリマー | 耐薬品性と熱安定性に優れる | 三菱エンジニアリングプラスチックス(Duracon) |
この構造の違いが、用途や加工性にも影響します。たとえば、精密ギアなどの摺動部品では、耐摩耗性の高いホモポリマーが好まれる傾向にあります。
POM樹脂の耐久性を支える要因
POM樹脂の耐久性は、以下の3つの要素に支えられています。
- 高い結晶化度:分子鎖が整然と配列しており、応力が集中しにくい構造。
- 優れた疲労強度:繰り返し応力に対しても変形しにくく、長期使用に耐える。
- 自己潤滑性:摩擦による摩耗を抑え、潤滑油を使わずに摺動が可能。
これにより、ギア、ベアリング、カム、ローラーなど機械的ストレスを受け続ける部品に多用されます。特に自動車の燃料系部品など、耐油性や寸法精度が求められる用途にも採用されています。
なお、POM樹脂の摩擦摩耗特性についてはJISでも規定されており、耐摩耗性を評価する際の指標として用いられています。
POM樹脂の強度|金属代替を可能にする理由
POM樹脂の引張強度はおよそ60〜70 MPaと非常に高く、ナイロン(PA6)やポリプロピレン(PP)よりも優れています。また、弾性率も高く、荷重を受けても変形しにくいという特徴があります。これにより、軽量化と強度を両立できるのです。
樹脂名引張強度(MPa)特徴 POM(ポリアセタール)60〜70高剛性・高強度 PA6(ナイロン)50〜60耐衝撃性に優れる PP(ポリプロピレン)30〜35軽量・安価この強度特性により、POMは金属ギアの代替や精密機構部品として活用されています。 また、温度変化に対しても寸法変化が少ないため、精度の高い組立が可能です。
POM樹脂の弱点と対策
一方で、POM樹脂には弱点もあります。代表的な課題は、耐熱性と耐酸性です。 POMは連続使用温度が100℃前後と限界があり、酸化性環境下では分解が進行します。
その対策としては、以下のような工夫が行われます。
熱安定剤や酸化防止剤を添加して改質するガラス繊維で強化して耐熱性を向上させる金属部品との接触部をコーティングで保護する特にPOM-GF(ガラス繊維強化タイプ)は、標準POMより20〜30%高い強度を持ち、寸法安定性も大幅に改善されます。こうした改質グレードの選定は、使用環境と応力条件に応じた設計判断が必要です。
他樹脂との比較と選定のポイント
エンジニアリングプラスチックの中でも、POM樹脂は「摺動+剛性」を両立できる点で独自のポジションにあります。ナイロンは耐衝撃性に優れる一方で吸水しやすく、ポリカーボネートは耐衝撃性が高いが摺動には不向きです。
樹脂特徴主な用途 POM高強度・低摩擦・寸法安定ギア、ベアリング、精密部品 PA(ナイロン)耐衝撃性・柔軟性機械カバー、ファスナー PC(ポリカーボネート)透明性・耐衝撃性カバー類、光学部品さらに、POM樹脂の設計時には「摩擦係数」「クリープ特性」「熱膨張率」なども評価すべき指標です。これらの値を総合的に検討することで、部品寿命を大幅に延ばすことが可能になります。
よくある質問(FAQ)
まとめ|POM樹脂の可能性と今後の展開
POM樹脂は、その高い強度・耐久性・寸法安定性により、金属代替材料として多くの分野で使用が拡大しています。 今後は、カーボンニュートラル社会の中で「軽量化」「リサイクル性」を両立する高性能樹脂として、さらなる改質研究が進むと予想されます。
POM樹脂の耐摩耗特性や摺動性設計に関しては、POM樹脂の摩耗特性に関して解説で詳しく解説しています。 また、エンジニアリングプラスチックの比較では、他樹脂との性能差を詳細に分析しています。