なぜチタンは腐食するのか|「腐食しない金属」の誤解と実務での落とし穴
チタンが「腐食しにくい」と言われる理由
不動態皮膜による高い耐食性
チタンの最大の特徴は、表面に形成される極めて安定した不動態皮膜(酸化チタン皮膜)にあります。この皮膜は非常に薄いにもかかわらず、酸素が存在する環境では瞬時に再生され、母材を腐食環境から遮断します。
この性質により、チタンは以下のような環境で高い耐食性を発揮します。- 海水・塩化物環境
- 酸性溶液(硝酸など)
- 高温・高湿度環境
ステンレス鋼との耐食メカニズムの違い
同じ耐食材料として比較されることの多いステンレス鋼は、クロムによる不動態皮膜に依存しています。一方でチタンの不動態皮膜は、より安定で破壊されにくいという特徴があります。そのため、一般的な腐食環境では「ステンレスよりチタンの方が安全」という評価がされがちです。しかし、皮膜が成立しない条件では、この前提が崩れます。ここにチタン腐食の落とし穴があります。チタン腐食が発生する代表的なケース
酸素欠乏環境での腐食
チタンの不動態皮膜は、酸素が存在することで維持されます。そのため、以下のような酸素欠乏環境では皮膜が安定せず、局所的な腐食が発生する可能性があります。隙間内部(すきま腐食条件)密閉構造内部停滞した液体中このようなケースでは、設計段階での構造配慮が極めて重要になります。高温・還元性環境での腐食
高温下かつ酸素供給が不足する環境では、不動態皮膜が破壊されやすくなります。特に以下の条件が重なると注意が必要です。| 条件 | 腐食リスク | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 高温(300℃以上) | 皮膜の安定性低下 | 水素雰囲気 | 水素脆化の可能性 | 還元性ガス | 不動態皮膜の破壊 |
異種金属接触による電食
チタンは非常に貴な金属であるため、アルミや炭素鋼などと接触した状態で電解質が存在すると、相手材側が優先的に腐食する電食が発生します。これにより、周辺部材の早期劣化や構造トラブルにつながるケースがあります。チタン腐食を引き起こす設計・加工上の落とし穴
「チタンなら大丈夫」という材料選定ミス
チタン腐食トラブルの多くは、「チタン=万能耐食材料」という誤解から生じます。実際には、使用環境・温度・流体・構造条件を考慮せずに採用すると、期待した寿命を大きく下回ることがあります。加工時の表面汚染
切削・溶接・研磨時に付着した鉄粉や異物が残留すると、局部電池が形成され、局所腐食の起点になります。特に溶接部周辺では、以下の点に注意が必要です。専用工具の使用鉄系材料との混在防止適切な洗浄・酸洗処理溶接部での耐食性低下
チタン溶接では、酸素・窒素の混入によって表面が変色し、耐食性が低下します。チタン腐食を防ぐための実務的対策
環境条件の事前評価
流体の種類、温度、流速、酸素供給条件を事前に整理し、チタンの適用可否を判断することが重要です。特に化学プラント用途では、腐食試験データの確認が欠かせません。構造設計での工夫
すきまを作らない構造、排液性の高い設計、異種金属との絶縁処理など、設計段階での配慮が腐食リスクを大きく低減します。適切な表面処理と検査
酸洗・不動態化処理、定期点検を組み合わせることで、長期的な耐食性能を維持できます。過剰品質を避けつつ、必要な管理レベルを設定することが重要です。よくある質問
チタンは錆びない金属と聞きますが、本当に腐食しないのでしょうか。
チタンは表面に不動態皮膜を形成するため非常に耐食性が高い金属ですが、どのような条件でも腐食しないわけではありません。酸素が不足する環境や高温・還元性雰囲気では皮膜が安定せず、局所腐食が発生する場合があります。チタンの耐食メカニズムについて、詳しくはチタン材料の基礎解説で解説しています。また材料規格の考え方はJIS規格でも整理されています。
どのような使用環境でチタン腐食が起きやすくなりますか。
チタン腐食は、すきま内部などの酸素欠乏環境、高温かつ水素や還元性ガスが存在する条件で起こりやすくなります。また異種金属と接触した状態で電解質があると、電食によるトラブルも発生します。使用環境の整理方法について、詳しくは腐食環境評価の考え方で解説しています。一般的な耐食材料の比較は日本チタン協会の資料も参考になります。
設計や加工の段階で注意すべきチタン腐食対策は何ですか。
設計ではすきまを作らない構造や排液性の確保、異種金属との絶縁が重要です。加工面では鉄粉汚染の防止や適切な洗浄・酸洗処理を行わないと局所腐食の原因になります。これらを前提に材料選定を行うことが重要で、詳しくはチタン設計時の注意点で解説しています。加工後の表面管理については学術論文データベースの事例も参考になります。